児童虐待における「予防」の大切さ
これまでの日本の社会では、『児童虐待防止』というように、「防止」という言葉が広く使われてきました。
一方、私たちチア・ザ・チルドレンが重要視するのは、「予防」という言葉です。
なぜ、私たちが「防止」と「予防」の語義の違いを明確にし、「予防」という概念を重要視するのかを説明しましょう。
例えば、「防災」という言葉があります。「防災」という言葉を聞くと、「非常用品を備蓄しておこう」、「避難場所を確認しておこう」、「家具が倒れないようにつっかえ棒を取りつけよう」「迅速に避難ができるように、日頃から避難訓練をしておこう」という意識が高まり、行動に移します。これは、無意識に感じている「予防」の意識なのです。
しかし、「児童虐待防止」という言葉を聞いたとき、一般の人たちは、どんな意識になり、どんな行動をとるでしょうか?
一般的に、「虐待を目撃したら通報する」、「児童相談所や警察の対応をもっと改善すべきだ」、「育児不安や育児ノイローゼに対応する支援を強化したほうがいい」、「リスクがある家庭をもっと監視したり、指導したりしたほうがいい」など、いわゆる、行政への期待、もしくは不満、それと、どこか他人事といった意識がほとんどなのではないでしょうか?
それは、なぜかと言うと、『児童虐待防止』という言葉は、「防災」という言葉ほど、自分の身に落とし込んで考えさせるものではないからです。
また、「防止」という言葉には、「予防」の意味がほんの少し含まれていますが、「児童虐待防止」という言葉には、「防災」ほど、一人ひとりがすべき内容を、具体的に示していないのです。ではここで、「防止」と「予防」の言葉の違いを、確認してみましょう。
防止(ぼうし)
「防止」という言葉は、その文字通り「防ぎ止める」という意味です。悪いことがすでに起こっている、または起こりそうな状況に対して、それを止めたり、食い止めたりすること。例えば、「感染拡大防止」というように、今、目の前にある問題に対処しなければならない、というものです。これは、「虐待を目撃をしたら通報する」、「ホットラインを設置する」、「児童相談所や警察が被害児童を保護する」、「リスク判定をした家庭の監視をする」、「家庭指導をおこなう」などが、これにあたります。
予防(よぼう)
「予防」は、文字通り「あらかじめ防ぐ」という意味です。悪いことがまだ起こっていない段階で、将来起こるかもしれない事態をあらかじめ防ぐ何らかの策を講じること。これは、親による加害を防ぐために、子育ての基本や子どもとのコミュニケーション方法を学ぶ「ペアレンティング教育」をおこなうことや、子ども自身が虐待のリスク回避できるように、『児童虐待予防教育』を実施することなどです。例えば、「風邪予防」や「虫歯予防」のように、まだ見えない将来のリスクに備えて、計画的な行動をとることです。
いわゆる「防止」は、包括的な意味を示していて、とくに社会構造に対してアプローチする言葉であり、「予防」は、一人ひとりの意識と行動にアプローチする言葉とも解釈することができます。
日本は、この「予防」に対する意識がとても希薄なのです。
ですから、児童虐待の「防止」という言葉を耳にしていても、一人ひとりの「予防」の意識と行動につながっていなかったのです。
近年、子どもたちは、小・中・高校において「児童虐待」について学ぶようになりました。しかしながら、その内容は、各学校によりバラつきがあり、また、教師の技量に任されていて、専門性が保証されていないという問題があります。
また、インターネットの登場によって、より虐待リスクが複雑化してきている現代において、現行の学校教育だけで足りているのかという問題もあります。
「人身売買」や「組織的な児童性搾取」など、遠い国で起こっていた出来事も、いまや、誰にでも、どんな子どもにも起こりうるリスクになってきています。
だからこそ、私たちチア・ザ・チルドレンは、この「予防」という概念を明確にし、専門性を高め、一人ひとりの「あらかじめ防ぐ力」に、力強くアプローチをしていく所存です。
チア・ザ・チルドレンが推奨する『児童虐待予防教育』は、子どもたちが、安心安全な人生を送るための「土台」を築く上で、大きな役割を果たします。
